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Open Zemi #5 PAN-PROJECTS "Intercultural"


去る4月4日に行われた第5回吉村研オープンゼミでは、デンマーク・コペンハーゲンを拠点としヨーロッパを中心に世界的に活動されている設計事務所、PAN PROJECTSの高田一正さんと八木祐理子さんをお招きし、「Intercultural」というテーマでお話ししていただきました。両氏とも現在27歳で比較的学生に近い世代であるうえに、学生時代の活動から現在の活動までをシームレスに紹介していく構成で、事務所設立に至った経緯などを聞くことができたので、学生にとってもリアリティのあるレクチャーだったと思います。

はじめに「BEFORE PROJECTS」と題して、事務所設立以前の学生時代の活動の紹介がありました。まず、高田さんは大学2-3年の間に休学して世界一周旅行を敢行し、世界中の建築を見て回りました。その後、卒業論文ではジェフェリー・バワの研究を行ない、卒業計画では東日本大震災を受けて都市と自然の関係をテーマに地下調節池を設計しました。学部卒業後は、デンマーク王立芸術アカデミーに進学し、大学院のスタジオ課題では宮城県石巻市に被災者の形見を集めて展示する施設を設計しました。またLIXIL主催の実験住宅のコンペでは北海道大樹町に雪が積もると外形が変化する軽い建築を設計しました。このスタジオ課題とコンペは、異国の文化を客観的に理解することの限界を感じるとともに、そのような文化をどうやって扱えばよいのかを考える良い機会になったと言います。

また、八木さんは大学院1年の時に、海外の建築の現場を見てみたいという純粋な興味からデンマークにある2つの設計事務所でのインターンを経験しました。ダイアグラムから建築を考える「ADEPT」と、感覚的なアイデアから建築を考える「Atelier Lise Juel」という対照的な2つの事務所での経験や、当時ポーランドの友人と協働したコンペでの勝利から、日本で学んだ建築の作り方が海外でも通用することを実感したと言います。「いつでも日本に戻れるから気軽に海外で働くという選択肢を選んだ」という言葉が印象的でした。

次に、PAN PROJECTSの活動の紹介がありました。事務所設立のきっかけは2017年頃に始まった「PAPER PAVILLION」のプロジェクトです。CNCで切り出した合板をセルフビルドで組み立て、ミノムシのように建築の周りに雑誌や新聞などの大量の紙を配置しました。建築のファサードが読まれるという特殊な状況が生じ、建築と人の新しいインタラクティブな関係がつくることができたと言います。また「FOS」という廃工場のリノベーションでは、天井材の落下を防ぐために工場内部のストラクチャーに巨大なセキュリティーネットをかけて新たな柔らかい空間を作りました。さらに「IZUMI」というデンマークにある寿司屋のインテリアでは、アレンジが加えられたデンマークの寿司から着想を得て「文化の書き換え」というテーマに至り、現地の材料と技術により作られた木材パネルを畳のモジュールで配置し、日本らしさとデンマークらしさを合わせ持つ面白い空間を作ることができたと言います。

このレクチャーのテーマである「Intercultural」に関しては、8人組の多国籍バンド「Superorganism」を紹介し、将来的には多国籍な多様性をミックスするようなチームを作りたいと言います。例えば、UIデザインの分野では世界中の人々が同じアプリを使うため、様々な人種が開発チームに含まれています。このようなチーム編成で建築を作らなければいけない時代がいずれ来るはずだと言います。

後半は吉村靖孝教授や会場の皆さんを含めたディスカッションに移りました。まず、吉村教授はレクチャー全体について「どこでも誰にでもわかりやすい反知性主義的な建築と、多国籍バンドのようなインターカルチュラルな状態は、一見対極にあるようで根っこは共有していると思う」と指摘しました。また会場からも多くの質問が出ました。まず「寿司屋のプロジェクトに関して、デンマークの技術と日本の畳を組み合わせても文化を混ぜ合わたことにはならず、もっと直接的に勘違いを設計手法に取り込めるのではないか」という質問に対しては「単なる勘違いから直接的に設計手法を組み立てるのは難しく、かといって意識的に勘違いを再現するのはウソっぽくなってしまうので、今は多国籍のチームでディスカッションすることで新しい手法を生み出している」と言います。また「文化は簡単には線引きできずグラデーショナルなものなので、異文化間の共通性を見つけることが文化を混ぜ合わせる手がかりになるのではないか」という意見に対しては「日本とデンマークはどちらも簡素なものが好まれるが、日本のシンプリシティは引き算的であるのに対して、デンマークのシンプリシティは加算的である。」という異文化間の共通性を見つけたエピソードを話されました。さらに「20代のうちにパビリオン的な小さい建築をたくさん都市に仕掛けていきたいというビジョンが語られていたが、その先の数十年は何をしていきたいか」という質問に対しては「ディスカッションが面白いからヨーロッパには居続けたいが、同時にアジアに進出するルートを確立していきたい。また基礎のある建築を設計できるように社会的な信頼を獲得していきたい。」という野望を語られました。最後に「所員をたくさん抱えずその都度チーム編成を変えて設計するという、新しい建築家像だと感じた。拠点を構える必要がなくなりつつある時代にあえて拠点を持つ理由は何なのか。」という質問に対しては「そもそも私たちはPAN PROJECTSというプラットフォームに乗っている状況だと思っていて、これからもフットワーク軽くやっていきたい。しかし建築家としてある場所に根付きたいという思いは強くある。」と語られました。

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