
Open Zemi #6 Ryoko Iwase "Infrastructure"
第6回目のオープンゼミは建築家・岩瀬諒子さんをお招きし「Infrastructure」というテーマでお話ししていただきました。岩瀬さんは土木と建築の領域を横断するような設計活動をされていて、インフラスケールのプロジェクトにおいても細部のデザインやマテリアルを追求されている姿勢が印象的でした。今回のレクチャーでは堤防のデザインと道路のデザインの2つのプロジェクトに絞ってお話ししていただきました。 はじめに、インフラのデザインにおけるベースとなる考え方を語られました。ヨーロッパと比べて日本の公共空間では、法律により手すりや塀などの取り付けが事細かに義務付けられていたり、いろいろな行為が禁止されていたりと規制が多いため、広くデザインされているにも関わらずほとんど使われていない公共空間が多く見られます。しかし、本来公共空間およびインフラはそこで暮らす人々の習慣と切り離せないもので、インフラのデザインは人々の日常を支えるとともに、長い時間をかけて文化を醸成すると言います。 次に、《トコトコダンダン》という堤防のデザインの紹介がありました。このプロジェクトは

Open Zemi #5 PAN-PROJECTS "Intercultural"
去る4月4日に行われた第5回吉村研オープンゼミでは、デンマーク・コペンハーゲンを拠点としヨーロッパを中心に世界的に活動されている設計事務所、PAN PROJECTSの高田一正さんと八木祐理子さんをお招きし、「Intercultural」というテーマでお話ししていただきました。両氏とも現在27歳で比較的学生に近い世代であるうえに、学生時代の活動から現在の活動までをシームレスに紹介していく構成で、事務所設立に至った経緯などを聞くことができたので、学生にとってもリアリティのあるレクチャーだったと思います。 はじめに「BEFORE PROJECTS」と題して、事務所設立以前の学生時代の活動の紹介がありました。まず、高田さんは大学2-3年の間に休学して世界一周旅行を敢行し、世界中の建築を見て回りました。その後、卒業論文ではジェフェリー・バワの研究を行ない、卒業計画では東日本大震災を受けて都市と自然の関係をテーマに地下調節池を設計しました。学部卒業後は、デンマーク王立芸術アカデミーに進学し、大学院のスタジオ課題では宮城県石巻市に被災者の形見を集めて展示する施

Open Zemi #4 Koki Akiyoshi "Fabrication"
2018年7月24日に行われた吉村研第4回オープンゼミでは、VUILDの代表である秋吉浩気さんをお招きし、「fabrication」というテーマでお話ししていただきました。氏は、主にデジタルファブリケーション(以下、デジファブ)の技術を用いて、「建築家」として作品を作るかたわら、「メタアーキテクト」として一般人が建築を作るためのプラットフォームを作る活動もされています。この2つの立場でのプロジェクトの紹介を通して、「デジファブ技術によって建築生産の仕組みを変えよう」という強い意志が伝わってきました。 はじめに、VUILDという会社は、林業に携わる人と共同主宰し、建築家はもちろんエンジニアや大工などの職人も抱えています。この他分野協働の強みを生かして、木材の生産者に木材加工機械を提供することで、中間産業である工務店や商社を通さず、ダイレクトに消費者に届けられるルートを用意し、自立分散型の建築生産の仕組みを作ろうとしています。 次に、プロジェクトの紹介に移りました。まず「佐川の船小屋」というプロジェクトでは、地域おこし協力隊の人たちと「地域の優れた資
Open Zemi #3 Junya Inagaki "Clinicality"
2018年6月28日に行われた吉村研第3回オープンゼミでは、建築専門家集団Eurekaを共同主宰する稲垣淳哉氏をお招きし、クリニカリティ-建築の臨床性-についてお話ししていただきました。氏は、クリニカリティを語るうえで、以下の5つのテーマを上げ、ご自身のプロジェクトを現代的な建築の出来事と合わせながら、建築における臨床性について考察を展開しました 00.Accommodation(適応・調和・調節の臨床性) 01.Various(多様性、個別性に寄り添う臨床性) 02.Awareness(意識・知覚に注目し、主体性・能動性を回復する臨床的アプローチ) 03.Observation(環境と即応する臨床性) 04.Mode(様態・様相の変化に応じる臨床性) まず「00.Accommodation」では、氏が臨床性という言葉と出会うきっかけとなった「Make Alternative Space」という、都心の小さな倉庫のリノベーションのプロジェクトを例に、リノベーションがすべからく持つ臨床性について考察しました。氏は、ものの居場所から人の居場所へと変え
Open Zemi #2 Shinichi Kawakatsu "Research"
2018年5月31日、建築リサーチャーでRADを主宰されている川勝真一さんをお招きし、第二回吉村研オープンゼミが行われました。 川勝真一さんのレクチャーは、ご自身が関わったプロジェクトやこれまで建築の領域で行われてきた有名なリサーチの例を挙げていきながら、建築設計におけるリサーチの位置付けを整理していくものでした。 第一に氏はRADが行ったいくつかのプロジェクトを挙げ、「建築の裾野を拡張する」ことの重要性を強調しました。町家をワークショップ形式で改修していく「HAPS BASE WORKSHOP(2012-13)」では、建築設計が解体・施工・運用の範囲まで拡張されています。「SUUJIN MAINTENANCE CLUB」は、メンテナンスという誰もが参加できる公共への貢献方法のなかに現れるクリエイティビティに注目し、メンテナンス自体も建築設計の範疇に入れようという試みです。また「ARCHIZINES OSAKA」では世界の建築雑誌に焦点を当てた展覧会を行い、建築メディア牽いては展覧会というメディアそのものを建築設計の考察対象に入れています。氏はこ
Open Zemi #1 Haruka Uemura "Materiality"
去る5月15日、建築家の植村遙さんをお招きして第一回吉村研オープンゼミが開催されました。 植村さんのレクチャーは、テキスタイル・デザイナーや造園家、エンジニアなど他業種との協働を通して体系化されたマテリアルの性質と表現の関係がテーマで、特にソフトマテリアルをどのように扱うかという点にフォーカスしたものでした。また、全体を通して「マテリアルを自分で作ること」「マテリアルをサイトスペシフィックに用いること」という、氏の2つのテーマが浮かび上がってきました。 氏はまず、「material gesture」という言葉を掲げ、マテリアルの持つ性質を知ることでそのオリジナルの形を知ることができ、その結果、もう一歩踏み込んだデザインを生み出すことができるようになるのではないかと指摘しました。「デザインのプロセスとしてマテリアルと対話すること」が持つ可能性を体現するものとして、バタラという遺跡地でのプロジェクト(※1)を紹介し、実際に材料として用いるコンクリートを使って模型を作ることで、スタディの中で素材の色味や性質を吟味でき、デザインにフィードバックすることが