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Open Zemi #1 Haruka Uemura "Materiality"

去る5月15日、建築家の植村遙さんをお招きして第一回吉村研オープンゼミが開催されました。

植村さんのレクチャーは、テキスタイル・デザイナーや造園家、エンジニアなど他業種との協働を通して体系化されたマテリアルの性質と表現の関係がテーマで、特にソフトマテリアルをどのように扱うかという点にフォーカスしたものでした。また、全体を通して「マテリアルを自分で作ること」「マテリアルをサイトスペシフィックに用いること」という、氏の2つのテーマが浮かび上がってきました。

氏はまず、「material gesture」という言葉を掲げ、マテリアルの持つ性質を知ることでそのオリジナルの形を知ることができ、その結果、もう一歩踏み込んだデザインを生み出すことができるようになるのではないかと指摘しました。「デザインのプロセスとしてマテリアルと対話すること」が持つ可能性を体現するものとして、バタラという遺跡地でのプロジェクト(※1)を紹介し、実際に材料として用いるコンクリートを使って模型を作ることで、スタディの中で素材の色味や性質を吟味でき、デザインにフィードバックすることができたそうです。また、「こういう物を作りたい」という要請から、今までにない新しいマテリアルが作られることもあると言い、手描きの大理石模様で仕上げたMDFを用いた建具が紹介されました。このプロジェクトには、実際には軽い材料に重く見える仕上げを用いる(マテリアルの特性を「フェイク」として用いる)ことで異化作用が期待されるとともに、MDFを使うことで早く安価に出来るという経済的な合理性があり、また、ベルギーの職人の塗装技術を継承するという意味も付加されました。

次に、「Soft material」であるカーテンを建築の構成要素と捉えるプロジェクトとして、カーテンレールをストラクチャーのひとつとして扱いカーテンに開口を設けて回遊性をもたらした「ラボバンク」という複合施設や、建物の構造としてのハードマテリアルと対比して、音響機器が埋め込まれたカーテンをソフトマテリアルとして用いた「クンストハル」を例として挙げられました。また、miCo.と協働したプロジェクトでは、カーテンが事務所内のゾーニングをするとともにそれ自体屋内の光を受けて外部に対して照明の役割を果たしています。

最後に、「Living material」として、食べられる植栽(edible green)を用い、五感に訴えかける要素をもとに配置して、ランドスケープデザインの新境地を見つけたというバーレーンでのパビリオンのプロジェクト(※2)や、水と人だけを動力にして動く橋を計画したデルフト工科大学との協働プロジェクトや、オランダにおける自然と土木構築物の関係を可視化するための材料として水を用いた、カナル運河の歴史を展示するミュージアムのプロジェクトなどを紹介されました。

後半のディスカッションでは、吉村靖孝教授から「1990年代にOMAやヘルツォーク&ド・ムーロンがマテリアルに対する感度の高い建築を立て続けに発表したことでマテリアルブームが巻き起こり、それ以降、現代建築の世界でマテリアルへの言及は少なくないが、大学の教育においてはごっそり抜け落ちている部分であり、その意味では、学生だからこそマテリアルから始めて逆算的に建築を考えていくことに可能性があるのではないか。」とのコメントがあり、また大理石×MDFのプロジェクトで「フェイク」としてマテリアルを用いたことに触れて、「マテリアリティは、マテリアルそのものではない」との指摘がありました。

会場からも多くの質問が出ました。「マテリアルの振る舞いが計画していた射程を超えたとき(コンクリートのひび割れやエイジング等)どのように考えているか」という質問には、「雨漏りなどそのままだと危ない部分は直すが、時には経年変化を生かす」との回答があり、また、「材料はスケーラブルではないため、実際の建築と同じ材料で模型を作っても厳密には再現できないが、どこに模型の落とし所を設定しているのか」という質問に対しては、「模型自体の厳密さは目指しておらず、模型を作る過程はマテリアルを理解するためのデザインプロセスの一つでしかない」と回答されました。その他、「マテリアルレベルの考えが、スケールを横断して、都市計画レベルにまで及ぶことがある」という話や、「リビングマテリアルをプレゼンテーションするときにはそのマテリアルを取り巻く環境などをリサーチする段階がメインになってくる」という話、「オランダでは自然も全てコントロールできるという概念が浸透しており、そこで植物もマテリアルとして扱うという発想を学んだ。」という話など実体験を通じたリアルな話を伺うことができました。

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