Open Zemi #4 Koki Akiyoshi "Fabrication"
2018年7月24日に行われた吉村研第4回オープンゼミでは、VUILDの代表である秋吉浩気さんをお招きし、「fabrication」というテーマでお話ししていただきました。氏は、主にデジタルファブリケーション(以下、デジファブ)の技術を用いて、「建築家」として作品を作るかたわら、「メタアーキテクト」として一般人が建築を作るためのプラットフォームを作る活動もされています。この2つの立場でのプロジェクトの紹介を通して、「デジファブ技術によって建築生産の仕組みを変えよう」という強い意志が伝わってきました。
はじめに、VUILDという会社は、林業に携わる人と共同主宰し、建築家はもちろんエンジニアや大工などの職人も抱えています。この他分野協働の強みを生かして、木材の生産者に木材加工機械を提供することで、中間産業である工務店や商社を通さず、ダイレクトに消費者に届けられるルートを用意し、自立分散型の建築生産の仕組みを作ろうとしています。
次に、プロジェクトの紹介に移りました。まず「佐川の船小屋」というプロジェクトでは、地域おこし協力隊の人たちと「地域の優れた資源をどうやって日常空間に持っていくか」を考えながら、子供たちがプリンを食べるための構造体を作りました。このプロジェクトを通して「伐採→製材・乾燥→CNC切削→組立」というサイクルが産業として自律的に成立すると確信し、地方創生の文脈でShopBot(加工機械)を全国に普及させることを思い立ったと言います。次に「川崎の仮設橋」というプロジェクトでは、宮崎県産の木材を用いて、川崎市にいる生活保護者の人たちの協力をあおいで、川崎市内の公園にシンボリックな構造体の遊具を作りました。ボランティアの人たちが簡単に組み立てられるような接合部を考えるのに、修士時代に行なった、木工家具から建築物まで様々な構造体を作る際のCNCに適した接合部の研究が参考になったと言います。また「福岡の休憩所兼遊具」というプロジェクトでは、それまでの秋吉さんの活動が世に知れ渡ることで全国にShopBot保有者が少しずつ増えてきたため、ShopBotのある4箇所でそれぞれ加工したパーツをバラバラに送ってもらい、福岡大学で文系の学生や子供たちとともに組み立てました。近年、遊具の事故が増えていますが、組み立て段階から見せることで、どこが危ないかを理解することができると言います。さらに、豪雨被災地の福岡県朝倉市にShopBotと仮設電源を持って行き、現地の人たちとの対話を通してその場で家具を考えてモデリングし、掘削して組み立てるというワークショップや、利用者が少なくなった渋谷区の公園を再生するために渋谷の子供たちとベンチを作りながら制度設計まで考えたという公共事業のプロジェクトの紹介もありました。最近では、豪雪地域で現地の材料を用いて宿泊施設を計画したり、人工生命学会と協働してIoTを搭載した住宅を考えたりと、建築を作る仕事も増えてきたということですが、建築という特殊解の仕事も、あくまで一般解を作るためにやっていると言います。
後半は吉村靖孝教授や会場の皆さんを含めたディスカッションに移りました。まず吉村教授は、ウィトルウィウスの『建築書』にある「建築家」の定義を引用して、「秋吉さんは自分のことを”メタアーキテクト”と言っているが、秋吉さんの仕事は実はオリジナルな意味での”アーキテクト”の職能に近いのではないか」と指摘しました。また会場からも多くの質問が出ました。まず「VUILDのデジファブ表現が新鮮に見えるのはディティールを工夫しているからだろうか」という質問に対しては「大工の口伝書や雛形はパラメトリックデザインのようなものだと捉えているので、伝統構法を取り入れながら新しいディティールを考えて、CADを操作できる大工とともに組み立てをしている」と実践を語ってくれました。次に「地方でのプロジェクトの紹介が多かったが、空き家や縮小化などの都市の問題には、どう切り込んでいくつもりか」という質問に対しては「地方で使われていない木材の端材を加工して都市に持ってきたり(地産都消)、プラスチックゴミをプレスして机を作るなど、化石燃料などの近代化の中で都市に蓄積したマテリアルを再利用して資材として使ったりしている」と言います。さらに秋吉さんが冒頭で話されていた「木材の工法が角材による在来木軸工法から板材によるデジタル工法に変化する」というビジョンについて「板材によるデジタル工法が木材工法の主戦場になりえるのか」という質問に対しては「在来工法を使った大工たちの世界がなくなることはないと思う。デジタル工法の役割は一般の人たちに建築の作り方を広めるためにわかりやすいモジュールを作ったり端材をCNC加工して利活用したりすることだ」と言います。最後に「災害が起こった時、デジファブ技術を用いて被災地でどのようなボランティアをするつもりか」という質問に対しては「被災地に本当に寄与しようと考えると、避難生活を終えて仮設住宅で日常生活を送るフェイズで必要になるものを作る必要があり、そのために事前復興的なことを考えながら、インフラから解放された加工技術を普及させていきたい」と答えてくれました。
デジファブ技術によって可能になる表現の話を軽々と越えて、そのような技術が普及して一般化した後の世界を見据えている秋吉さんのお話を伺い、デジファブへのイメージが大きく変わりました。