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Open Zemi #2 Shinichi Kawakatsu "Research"

2018年5月31日、建築リサーチャーでRADを主宰されている川勝真一さんをお招きし、第二回吉村研オープンゼミが行われました。

川勝真一さんのレクチャーは、ご自身が関わったプロジェクトやこれまで建築の領域で行われてきた有名なリサーチの例を挙げていきながら、建築設計におけるリサーチの位置付けを整理していくものでした。

第一に氏はRADが行ったいくつかのプロジェクトを挙げ、「建築の裾野を拡張する」ことの重要性を強調しました。町家をワークショップ形式で改修していく「HAPS BASE WORKSHOP(2012-13)」では、建築設計が解体・施工・運用の範囲まで拡張されています。「SUUJIN MAINTENANCE CLUB」は、メンテナンスという誰もが参加できる公共への貢献方法のなかに現れるクリエイティビティに注目し、メンテナンス自体も建築設計の範疇に入れようという試みです。また「ARCHIZINES OSAKA」では世界の建築雑誌に焦点を当てた展覧会を行い、建築メディア牽いては展覧会というメディアそのものを建築設計の考察対象に入れています。氏はこれらの例を通して、RADのプロジェクトに通底しているのは一般的に「建築設計」に含まれないような分野から建築にアプローチしていく姿勢であると解説しました。

次に川勝さんは、デザインとリサーチとを組み合わせた設計サイクルをダイアグラムで示しました。それは、①データを〈分析〉してデータの持つ意味を抽出し、②意味を〈考察〉してアイデアやコンセプトを立て、③それを元にプロダクトやサービスを〈設計〉し、④プロダクトやサービスを〈検証〉することでデータを得て、再度①に戻る…といったような繰り返しによってデザインを進めていくというもので、①と④がリサーチ、②と③が設計の範囲にそれぞれ対応します。続けて氏は、リサーチの方法を定量的アプローチ(統計調査・事例調査など)と定性的アプローチ(エスノグラフィ・フィールドワークなど)に分けてリサーチという言葉の解像度を上げた上で、これまで建築領域で行なわれてきた様々なリサーチの事例を紹介しました。また氏はレクチャーの締めくくりにこれからのデザイン・リサーチのあり方の一つとして、アイデアやコンセプトを形にするために積極的にデータを解釈していくリサーチ方式「パフォーマティブ・リサーチ」を紹介し、今後前述のような4段階のサイクルの回し方が変則的になっていく可能性を提示しました。

後半は吉村靖孝教授や会場のみなさんを含めたディスカッションに移りました。まず吉村教授は多くの建築家がリサーチの方法や表現それ自体をデザインしているのに対し、大学の設計教育の中ではリサーチがほとんど教えられていない現状を指摘しました。設計とリサーチの関係について学生からもいくつか質問が出ました。「都合の悪いデータが出た際にどのように設計につなげるべきか」という質問に対して川勝さんはデータソースを明示してリサーチのトレーサビリティを確保することの重要性を強調した上で、「一見自分の設計にとって都合の悪いようなデータを分析して解釈する操作じたいが新しい発見につながる」と応じました。また、日頃設計と調査の結びつきを実感することがあるかという質問に対しては、設計者とリサーチャーははっきり分業したうえで並走するスタイルが好ましいというご自身の考えを明らかにされました。会場にはEurekaの稲垣淳哉さんもいらっしゃっており、川勝さんが紹介した4つのリサーチの方式に着目して「統計調査や事例調査は建築家が進んで取り組むことが多いが、エスノグラフィやフィールドワークは余裕のある人がやるものになっている」と指摘しました。それに関して川勝さんは、「データ調査とサーベイを相互往還的に行いながら設計していくのがこれからの建築デザインの課題だ」と回答されました。吉村教授はそれを受け、「今和次郎が行ったようなエスノグラフィはビッグデータ解析へと取って代わり、フィールドワークはバーチャル地球儀のような3Dスキャン技術に回収されるといった風に、これまでのようなサーベイが無効化しつつある」と捕捉しました。

また稲垣さんからの「デザイン・サーベイが単なる地域の観察で終わらないために心がけていることがあるか」という質問に対して川勝さんは「地域を一方的に観察することに終始しないためにも地域に積極的に入ってアクションを起こし、そこに巻き込まれていく自分自身をも観察する」という態度を提示することで応じました。その他、リサーチと設計が「仮説を立ててそれを証明する」という本質においては同等な活動であることが強調されたり、前述のリサーチを取り入れたデザインの4段階サイクルを「か、かた、かたち」と類推するような議論が起こるなどし、今後我々が建築設計へのリサーチの取り入れ方それ自体をリサーチしていくためのきっかけとなりうるような有意義なゼミとなりました。

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